知識の呪いとは
概要
知識の呪い (curse of knowledge) とは、ある情報を知っている人が、その情報を知らない人の立場に立って考えることが困難になる認知バイアスを指す。この現象を示す実験として、1990 年にスタンフォード大学のエリザベス・ニュートンが博士論文で報告したものが知られる。
ニュートンの実験では、被験者に有名な曲のリズムをテーブルを叩いて伝えてもらった。実際に曲名を当てられた人はごくわずかだった一方、叩く側は実際よりはるかに多くの人が当てられると見込んでいた。叩く側は頭の中でメロディが鳴っているが、聞く側にはコツコツという音しか聞こえない。知っている人にとって、知らない人の世界は想像しにくい。
質問箱での知識の呪い
質問箱で知識の呪いが発動するのは、回答者が自分の専門分野や詳しい話題について答えるときだ。回答者にとっては当たり前の知識が、質問者にとっては未知の情報であることを忘れてしまう。「基本的なことですが」と前置きして専門用語を並べる回答は、知識の呪いの典型だ。
逆に、質問者が「こんな初歩的な質問をして恥ずかしい」と感じるのも、知識の呪いの裏返しだ。回答者は初歩的な質問を歓迎していることが多い。初歩的な質問には他の読者も同じ疑問を抱いていることがあり、回答が広く読まれる場合もあるからだ。「初歩的」かどうかは、知識レベルによって変わる相対的な概念だ。
呪いを解く方法
知識の呪いを解くには、「自分がこの知識を持っていなかった頃の自分」を意識的に思い出すことだ。かつて自分も初心者だった。そのとき何が分からなかったか、何に困ったか。その記憶を回答に反映させる。
実践的には、回答を書いた後に「この分野を全く知らない人が読んでも理解できるか」とセルフチェックする。専門用語を使っていないか、前提知識を省略していないか、飛躍した論理展開がないか。質問箱の回答は論文ではない。読者の多くは、その分野の素人だ。知識の呪いを自覚し、素人の目線で書き直す。この一手間が、回答の届く範囲を広げる。